2017年2月9日木曜日

犬の背にのった王様

朝、作業机横のカーテンをあけたら雪がちらちら。午後にはベランダから見える家々の屋根がうっすら白くなった今日の東京。
鯉がいる一番近くの施設は改装工事中。新宿へ行く用事もなし。
雪の日の恒例、魚類ウォッチは断念。
ベランダからヒヨドリを眺める。

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真冬の早朝、私は家の前に立っている。牛乳配達のおじさんを待っている。深みどりのオーバーを着せられて、手にはヒヨコ色の手袋。色を覚えているのは、それ以外は黒と白とその間の色しかなかったから。

夜が明け切らない暗い町。遠くから犬たちにリヤカーをひかせ、おじさんがやってくる。そして、目の前は一本に続く通りの景色。まっすぐに前を向き、誇らしい気持ち。それがやってくる。そう、私は牛乳配達の犬の背中にのった小さな王様だった。

おじさんと母のやりとり、犬の背中にのせてもらう、その記憶はない。おそらく、一度や二度や三度ぐらいは犬の背中から落ちたに違いないだろうけど、その記憶もない。

あとは、おじさんの上着の厚みと質感、ボコボコに歪んだ金物の洗面器の水を飲む犬の姿、ひとりで家へ戻る雪道のことを覚えている。少し凍った瓶入りカツゲンのおいしさはほかの記憶とゴチャゴチャになっている可能性大。

後に母の話から、犬の背中にのって牛乳配達をしたのはひと冬だけだったこと、あのおじさんは偏屈で有名だったけど私をとても可愛がってくれていたこと、冬以外の季節もおじさんの家へ出入りを繰り返していたこと、犬にパンやチョコレートを貢いでいたこと、が判明。そして、これが一番古い雪の記憶。